なぜAIの研究室がロボティクス研究?新たな研究分野への挑戦と今後の展望。

Sorry, this entry is only available in Japanese. For the sake of viewer convenience, the content is shown below in the alternative language.   松尾研は人工知能の研究を推進していることはよく知られていますが、ロボティクス研究にも注力していることはご存じない方も多いのではないでしょうか? 今回は、そんな松尾研のロボティクス研究の目的やこれまでの経緯、活動の全体像、今後の展望について、修士時代のロボット研究の立ち上げから活躍している博士課程所属 松嶋 達也さんと、ロボットチームのアドバイザーをしている松尾研講師である岩澤 有祐さんにお話を伺いました。   「知能の実現」を掲げる松尾研で、深層学習を用いたロボット学習を推進。   ー松尾研ではなぜロボティクス研究を推進しているのですか? 松嶋:松尾研がロボティクス研究を進めるのは、実世界と相互作用を持つ実機を使うことで、松尾研の目標である「知能とは何かを解き明かす」ことに近付くことができると考えるためです。 身体を持つシステムとしてのロボットの実装やデータ取得を通じて、汎用的で適応性の高い「かしこい」振る舞いを生み出すことを目的としています。これは、近年、松尾研で力を入れている世界モデルの研究を実世界のデータを用いて行うことに相当します。     ーロボティクス研究とは、具体的にはどのような研究を進めているのですか。 松嶋: ロボティクス研究を進めるロボットチーム(TRAIL)では研究活動・講義・ロボットサークル運営という3つの活動を推進しています。 研究活動においては、機械学習技術を用いてロボットの柔軟な認識や制御をデータから学習することを目指すロボット学習と呼ばれる分野の研究を中心に進めています。これまでのロボットは、工場のような綺麗に設計され、動作が制約された環境で高速かつ正確に決められたタスクをこなすという状況で活用されてきました。一方で、松尾研では、より難易度の高い、家庭環境や日常環境など人間とより近い場所で多様な環境で多様なタスクを想定して、先端AI技術を利用することによって様々な状況に対する汎化性能や未知の環境への適応可能性を高める技術の開発を行っています。 例えば、工場などでは「ナットを締める」という同じ動作を繰り返すようなロボットが使われてきましたが、家庭で使われるお片付けロボットであれば同じようには上手くいきません。Aさんの家の構造を完璧に理解し、その環境に適した振る舞いを身に付けたとしても、Bさんの家の構造は全く同じであることはほぼないため、これまでのロボットのプログラムや学習したことがそのまま活かせないということが理由です。こうした個々の環境に応じた振る舞いが求められるのが、家庭環境や小売環境の特異な点です。こうした問題を越えるために、我々は「汎化」「適応」というテーマに注力をしています。 そこで、松尾研では、それまでにロボットが動作した動きのデータから学習して、より良いロボットの動作を獲得することを目指す強化学習や模倣学習というアルゴリズムに関する研究をしています。また、模擬家庭環境を実際に研究室に用意して、実機の家庭用ロボットを用いたシステムを構築し、どのように深層学習技術を組み合わせれば、家庭内で遭遇しうる様々な物体やレイアウト、タスクに関して高い汎化性や適応可能性が得られるのかというデータドリブンなロボットシステムの構築に関する研究もしてます。さらに、実機のロボットから得られたデータだけではなく、それを模擬したようなシミュレータを活用して、データを効率よく集めて学習に用いるためのシミュレーション技術に関する研究(シミュレータから実世界への転移や、実世界のデータを用いたシミュレータの学習)にも取り組んできました。 また、上記の研究活動に付随して、ロボティクスと人工知能の融合領域に興味を持つ仲間を増やし、研究を活性化するための取り組みとして講義とロボットサークル運営も行ってきました。 ー現在は幅広く体系的に活動を推進していますが、研究の始まりはどのように興ったのですか? 岩澤: ロボットを使った活動が本格的に始まったのは4年程前からですが、実は松尾先生は以前から「ロボット研究は重要である」と繰り返していました。 知能の研究という側面から見ると、ロボット(あるいは環境とインタラクションすること)の研究は、身体性という言葉がよく出てくるように重要な意味があります。また、応用という側面から見ても日本が得意とするロボットをはじめとしたハード作成の技術力と、日進月歩のAI技術の掛け合わせは重要です。デジタルの世界はデータを取れれば研究を進めることができますし、英語標準で進むため、英語圏ではない日本はグローバルで戦い辛い。一方、技術力のある日本はハードを伴う物理的な世界の方が優位に立ちやすいと考えました。 でもハードって泥臭くて、動かすのが大変なんですよね。大半の機械学習の研究者はロボットを動かすことができない。ちゃんとやれば勿論動かせるのですが、独特のルールがあったりするので参入障壁が高いんですよね。その中であえてロボットの研究を進めていくのはチャンスなのではと。 そんな流れの中で、ロボット研究を元々は研究員で小さく始めていたところに、実機を使って研究開発をしたいという意識を強く持つ松嶋くんのジョインを契機に、2018年頃から本格的にロボット研究を始めました。 松嶋: 2019年頃には赤門近くのビルでロボット実験のための専用フロアを借り、本格的に実機を用いた研究を始めました。当初は1台のロボットとデスク以外何もないだだっぴろい部屋でしたが、4年が経った今ではロボットや機器が多数導入され、関わる人数も大幅に増え、設備が充実してきています。2023年2月現在では、トヨタ製のモバイルマニピュレータであるHSRが3台、ロボットアームが6台(ufactory xArm 7が2台、Ufactory lite…

「視野を広げ、長期的な研究に打ち込める。」常に変化を続ける、松尾研での9年間。

Sorry, this entry is only available in Japanese. For the sake of viewer convenience, the content is shown below in the alternative language. 今回ご紹介するのは、岩澤 有祐さんです。 岩澤さんは博士課程より松尾研に在籍し、特任研究員・特任助教・特任講師を経て、2022年より講師として研究活動を行っています。本記事では松尾研での在籍歴9年目となる岩澤さんに、研究内容や松尾研の魅力についてお伺いしました。 (2024年1月後書き)肩書きは2022年12月取材時のもの・現在は准教授   個人の研究から、エンジニアリングチームとの協働による大規模な研究まで幅広く推進。 ー松尾研ではどのような業務・研究をしていますか? 業務内容と言う意味で言えば、いわゆるアカデミアの業務としてイメージされることと大きくは変わらないと思います。研究を中心に、教育、学生指導なども行っています。ただ、研究と一口に言っても、個人のモチベーションベースで進めるようなものもあれば、よりトップダウンの研究プロジェクト、エンジニアリングチームと連携して進めるものなど様々なタイプの研究があります。 最近の個人的な研究としては、どうすれば大規模なモデルを効率的に新しいタスクで活用できるか?ということを中心に活動しています。機械学習の研究領域で言えば、転移学習・メタ学習・分布外汎化と呼ばれるような研究領域になります。特に最近は、非常に大規模なモデルの有効性が様々な領域で示されている流れを踏まえ、大規模なモデルであっても効率的に未知の環境やタスクに対して効率的に適応するための技術(Test-Time AdaptationやPrompting)に関する研究を行っています。 また、個人や数人での研究だけでなく、エンジニアリングチームと連携しつつ、チームで行っている研究もあります。 GAFAなどの組織が学習の研究を牽引している要因としては、良い研究者が集まっていることと共に、大規模な実験ができる体制が整っていることが挙げられます。インパクトのある研究を推進するためには、研究の下準備としてのデータ収集を始めとする、アルゴリズムアイデアの検討だけでは太刀打ちできない部分の検討が必要です。 勿論巨大企業の規模感には及びませんが、同じようなスキームを用いて個人では実現しづらい大規模な研究を推進できており、また、こうした研究を研究者自身が起案しリードできることは恵まれた環境と感じています。 参考) シリコンバレーに並ぶエコシステムの実現に向けて 代表松尾豊インタビュー(前編) 松尾研基礎研究にかける思い 代表松尾豊インタビュー(後編)     ー研究以外にはどのような活動をされているのですか? 研究以外の活動として長く継続しているものとしては、Deep Learning輪読会があります。これは毎週金曜日に開催している勉強会で、Deep Learningに関する最新の論文を持ち回りで読むというものになっています。2015年から継続しているもので、もとは松尾研内部の人が中心でやっていたのですが、徐々に人が増えて今は松尾研の講義修了生を中心に様々なバックグラウンドの方が参加しています。 深層学習領域で有名なIan Goodefellow先生らが書かれた本の翻訳も、上記の輪読会での活動をきっかけに生まれました。本が出てすぐに有志での輪読会をしていたのですが、参加していた松尾先生が「版権取って翻訳したら良いのでは」と仰ったんですよね。当時私はまだ博士課程の学生で、そのスピード感にとても驚いたことを覚えています。翻訳・全体の監訳双方で関わらせて頂き、実際はとても大変だった記憶の方が多いのですが、貴重な経験だったと思います。 その他では深層学習に関する講座にも講師・運営として関わっています。学生指導も行っており、4月からは特任講師から講師に着任し、正式に学生の受け入れも行っています。   ーどのような思いで講師に着任されたのですか? 大学の中をより深く知りたかったこと、また研究室として引き受けられる学部生の枠を広げたかったという理由が大きいです。 有り難いことに、毎年多くの学生が松尾研への配属を希望してくれる一方、枠の関係上、数名しか配属できないという状況でした。 勿論所属が全てではありませんが、「深層学習、知能の研究がしたい」という意欲ある人にはできるだけ機会を作ってあげたいという想いがあります。その枠を増やせるなら、という思いで着任を決めました。    …

知能の実現に本気で挑む。多角的な視点を有する、松尾研の研究環境とは?

Sorry, this entry is only available in Japanese. For the sake of viewer convenience, the content is shown below in the alternative language. 松尾研では「知能を創る」というビジョンを掲げ、研究を進めています。 前半では、知能を創る上で重要な研究テーマとなる「世界モデル」についてお伝えしました。後半である本記事では、松尾研の特任助教である鈴木雅大さんに、松尾研の研究環境やご自身の思いについてお伺いしました。(鈴木さんのインタビューは、前・後編の2回でお届けいたします。前編はこちら)     <知能を創る>という答えのない問い。多様な意見が議論の発展を促す。 ー 実際の研究環境についてお伺いしたいのですが、研究を推進する上での松尾研らしさとは何ですか? 基礎研究側からみた松尾研らしさは、なんといっても「<知能を創る>という情熱」と「多様性」です。 前者に関しては、松尾先生を含め、「知能を実現するためにどうすればいいか」を自由かつ真剣に議論できるところがとても特徴的です。人工知能系の研究をやる場合は、何か解くべき課題を見つけて、それについて取り組むという形が多いので、これは松尾研らしさと言えます。 後者に関しては、同じような考え方を持った人ばかりだと多様性が生まれないので 、異なる考えを受け入れることをとても重視していると思います。「知能を創る」ことへの情熱や世界モデルに対しての考え方など、根幹で共通してはいるものの、実は細かいところでは個々の意見が異なることも多々ありますし、時に松尾先生と意見が異なることもあります。 一般的な研究室だと、教授の示す方向に合わせる形で研究するか、あるいは完全にそれぞれが別々のことを研究するかに分かれることが多いです。ですが、松尾研では色々な考え方がありつつもこれが大事だという根幹の部分が共通しているという点で、結構珍しい研究室なのではないか?と思いますね。 ーなぜ松尾研の研究環境として多様性を重視しているのでしょう? 「知能がどうすれば実現できるのか」 という問いに、現時点で確実な答えがないからです。 知能を実現するための方法はまだ誰にもわからないので、メンバーで意見が完全に一致することは多くありません。ただ、そういった異なる意見が、議論の発展を促すのです。 これは同時に、人工知能という領域全体に当てはまる部分でもあります。例えば、自然科学の領域では世界がどのようになっているのかということがこれまでの研究の蓄積でかなり解き明かされているので、それをさらに発展させて「正解」に向かって研究を進めばいいんです。 でも、人工知能の領域では、人間のような知能を実現するということを達成した人はいないので、現在研究が進んでいる方向性が正しいのかは誰にもわかりませんし、知能について様々な考え方がある中で、どれが合っているのかを現在の我々が判断することはできません(※)。 そうした意味では、権威のある人の意見が必ずしも正しいとは限らないので、年配の研究者の方が若い研究者にリスペクトを持っているなと感じることも多いです。我々も当然、他の研究者の方々にリスペクトを持って研究を進めています。そういった風土を見ると、割とリベラルでいい研究領域だなと思っていますね。 ※ 厳密には知能も自然現象の一つなので「正解」があるはずです。しかし、それを解き明かすためには他の自然科学と同様に、仮説を立ててその仮説が正しいかを検証をする必要があります。これまで知能についての様々な仮説が考えられてきましたが、検証までできているものは殆どありません。理由としては、こうした知能仮説を検証する方法がこれまでになかったからです。近年の深層学習や世界モデルの発展によって、ようやく知能を創ることで知能を知るという「構成論的アプローチ」を取ることができるようになりました。そうした意味では、知能を解き明かす試みはようやく始まったところといえます。   「ロボットの実現には、まず知能が必要だ。」 人工知能研究へのこだわりの原点。 ー なぜ鈴木さんは「知能を創る」というビジョンに共感したのでしょう? 私自身が「人工知能を実現する」ということに強いこだわりを持っているからです。 私は元々ロボットに興味があったのですが、「知能を実現したい」と思った大きな転換点がありました。それは高校生の頃に二足歩行ロボットの動画を見たことです。 その動画ではロボットが「簡単に階段を降りられます」と言いながら、思いっきり階段を踏み外して転んでいて。転んでいるのにそのまま喋り続けている姿を見て衝撃を受けました。スタッフの人は それを見てすごく慌てて片付けようとしているけど、ロボットはずっと喋っているという。見た目はすごく人らしく歩いてるのに、頭はこんなに出来てないんだなと思いました。 これを見た時に「ロボットの頭、つまり人工知能を先にやるべきじゃないのか」と思い、大学(学部・修士時代は北海道大学に所属)では人工知能の研究をするために情報系の学科に入りました。  …

【松尾研主催Deep Learning 輪読会】記念すべき第256回が開催

Sorry, this entry is only available in Japanese. For the sake of viewer convenience, the content is shown below in the alternative language. You may click the link to switch the active language. DeepLearningの最新論文をキャッチアップする勉強会「DL輪読会」。 その記念すべき第256回目(2の8乗回)が先月開催されました。(写真は2019年以前のオフライン開催のもの) 今日はDL輪読会の活動についてご紹介します!   ◼︎DL輪読会とは DL輪読会では、毎週金曜日の朝10時から、Deep Learningに関する論文を紹介発表しています。2014年に開始し、活動としては6年以上続いています。 紹介する論文は毎回持ち回りで2〜3名が担当し、参加者自身が興味関心のあるものを自由に選ぶことができます。 参加者は学生だけでなく、大手企業やベンチャーに在籍されている社会人もいます。業務でDeep Learningに携わる方や、学生時代に関連の研究をされていて社会人になっても勉強を続けたい方など様々です。 そのため毎回多様な視点からの質疑応答が飛び交い、積極的に参加くださっています。 2020年はオンライン開催となったため、全国の講座修了生の方にも参加いただけました。   ◼︎発表スライドのTwitter表示回数ランキング 輪読会で発表されたスライドは随時SlideShereにてアップされます。2020年中で表示回数が最も多かった発表をご紹介します。 ※2020年1月〜12月21日までの「DL Hacks」Twitterアカウントより集計 5位 What do Models Learn from…