松尾研では2023年9月13日〜19日(5泊7日)でシリコンバレー視察研修を開催。グローバル消費インテリジェンス寄付講座の修了生から選抜された優秀生9名、松尾研学生含む学生5名と職員が出張しました。ここではその様子の一部を、参加学生メンバがレポートします!
Plug and Play訪問(9/14)
サンフランシスコに到着した翌日には、GoogleやPayPal、Dropboxの初期投資家として有名なVCであるPlug and Playのインキュベーション施設を訪問しました。
現地で勤務されている方に施設内を案内していただきながら、投資先の起業家をさまざまな面からバックアップしている事や、スタートアップ企業と提携したい大企業が日本含め世界中から来てPlug and Playに相談を持ちかけている事などをお聞きしました。そういった話だけでなく、過去の日本人起業家は、言語で苦労している事が多かったという耳の痛い事実も教えていただきました。
また、起業家の話もさることながら、Plug and Playの創業者サイード氏自身が、国を追われてほぼ全ての財産を失った状態で渡米したところから、オフィスビルの大家としてGoogleやPayPalの創業者に不動産を貸し出し、今や巨大なVC(しかも全て個人資産で運用している)を作り上げるまでに至ったという驚きのエピソードも出てきました。
一連の見学によって、何かしらの目標を達成するにあたって重要なのは、困難に直面しても諦めない事や、自分以外の人たちと助け合う事だと胸に刻み込まれたように思います。
Microsoft訪問(9/15)
Microsoftでは、Azure OpenAI Serviceをベースに様々なユースケースについて紹介いただきました。いくつかのサービスがある中でも、PDFなどの資料から自動でデータベースを作成し、資料の内容を元にQAができるボットを作成するサービスが印象に残りました。これらのサービスはより大規模言語モデルの利用が社会に浸透していく上で重要な役割を果たすだろうと感じました。
プレゼンテーションの後はMicrosoftのシリコンバレーキャンパス内のツアーを実施いただきました。訪問したキャンパスは1年前に完成したこともあり非常に綺麗で先進的なデザインをしており、食堂やものづくりの工房があったほか、屋上に食べることができるブドウが栽培されていたのも印象深かったです。このような仕事のみの場ではないオフィスの作り方がMicrosoftの風土にも影響を与えていくようにも感じられ、サービスのローンチのスピードやその幅広さにも繋がっているのではと思います。
Google訪問(9/15)
GoogleのMountain Viewキャンパスは全体的にカラフルで遊び心溢れる作りで、個人的にはGoogleのお手洗いに綺麗なコードの書き方に関する張り紙がされていたことが、時代を代表するテック企業らしくて印象に残りました。昼食は複数のGoogleの方々と社内食堂でいただきましたが、ビーガン向けのメニューがあるなど、ダイバーシティに配慮された環境が整っていました。昼食後はGoogleの研究者からロボティクスとLLMの分野における最近の研究を紹介していただき、松尾研究室のメンバーからも積極的な質問が上がり、活発な議論を行うことができました。オフィス、研究者、いずれもから、Googleがイノベーティブな成果を出し続けている雰囲気を感じ取れた、貴重な機会となりました。
Stanford大学訪問(9/16)
スタンフォード大学では、航空宇宙工学課博士課程の山崎さん、田久保さんのお二人にラボや研究内容のご紹介をいただきました。宇宙分野では、機械学習の説明性に対する懸念があり、伝統的には好まれてこなかったとのことでしたが、お二人のお話からはAI技術に関する情報のアップデート・造詣の深さを窺え、感銘を受けました。 また海外のPhDは学費や生活費がProfessor持ちになることや、学部時代に渡米されたお二人のアメリカ感も非常に興味深かったです。続いてSonyから客員研究員としていらしている沢田さんにもお話を伺いました。AI Audio Signal Processing、StanfordではAI Computer Visionの研究をされているとのことでした。具体的には、AIを駆使して3D空間を生成/推定するような研究で、最終的にはうまく統合してマルチモーダル(Audio-Visual)つまり、3D空間にマッチした立体音響までをも生成/推定することを目指されているそうです。美しいキャンパスやスタンフォードグッズを見た後、学食で昼食をいただきましたが、アメリカの食堂にもかかわらずコーラなどの飲み物が全く置かれていないのが印象的でした。
UC Berkley大学訪問(9/17)
UC Berkleyを訪れ、複数の研究室を視察しました。その中で、Mechanical Systems Control Labに所属する博士課程の小平さんにお会いし、歩行者のいる仮想世界での自動運転シミュレーションを紹介していただきました。VR機器で仮想世界中の歩行者を実際に操作でき、より現実的な状況を再現できるそうです。また、小平さんが趣味で研究されている、LLMベースで動くVtuber「しずく」のデモも見せていただきました。デモ中では違和感なく会話が進行し、その趣味のレベルを超越したクオリティに小平さんの圧倒的な開発力・実装力を感じました。
続けて、BAIR(Berkeley Artificial Intelligence Research)を訪問し、博士課程の中本さん、ポスドクの上原さん、豊田中央研究所(Toyota Motor North Americaに出向中)からいらした客室研究員の廣瀬さんのお三方に研究内容やアメリカでの研究生活について伺いました。中本さんは、stable diffusionを用いることで、現在の状態画像と自然言語によるタスク指定のみを入力としてrobot armにタスクを遂行させる研究を行っており[論文]、廣瀬さんは、歩行者の将来の動きを予測することで、レーダーを使わずに画像認識で人を回避するロボットの研究を行っています。そして、上原さんは、対象とする化合物と結合する薬品を効率的に発見するために、強化学習を用いたDrug Discoveryの研究を行っているそうです。異なるバックグラウンドを持つお三方のお話からは多くの知見が得られ、海外でAIを研究することの解像度が高まりました。研究室見学の前後にBerkeley の近代的なキャンパスを案内していただきましたが、BAIRの1階に丸亀製麺があったことも印象に残りました。
テックハウス訪問(9/17)
サンフランシスコ視察最後の夜は、シリコンバレーにある日本人起業家のためのシェアハウス「テックハウス」を訪問しました。
現地で起業されている松尾研出身の湯川直旺さん、「Glasp」というサービスを開発されている中屋敷量貴さん、そしてアメリカ・アジアでアーリーステージの投資をされているDCMベンチャーズの原健一郎さんからお話を伺いました。
当日は、なかなか聞くことのできないような共同創業者やVCの選び方で実際に失敗した経験談や、アメリカの発達したスタートアップエコシステムの中にはとてつもない数の屍が存在しているという生々しい話まで、日本人起業家の学びになるような話をたくさん伺うことができました。
その中でも印象に残っているのは、「学び続ける能力がない起業家は必ず失敗する」という法則。起業家として自ら学び自ら試行錯誤し続ける意識を忘れてはならない、と改めて実感しました。
以上、サンフランシスコ視察に行ってきたGCI優秀生によるレポートでした。
松尾研でデータサイエンスの基本を学べるGCI(グローバル消費インテリジェンス寄付講座)は、年に2回(春・秋)に開講します。
学生の方であれば誰でも受講が可能ですので、興味がある方はぜひ以下のリンクからウェブサイトをご覧ください!
https://gci2.t.u-tokyo.ac.jp/