こんにちは、広報の清水です。
松尾研究室で、2019年3月にイギリスの人工知能・ロボットに関わる研究機関や企業を訪問する海外研修を実施しました。
今回は、その研修の様子をお伝えします。
【行程】—————————————————-
3月11日 ロンドン
Lloyd’s of London・JR東海ロンドン事務所・JETRO訪問
3月12日 オックスフォード・ロンドン
オックスフォード大学見学・Oxford University Innovation・SMAP Energy社訪問
3月13日 ロンドン
Imperial College London Robot Learning Lab・Facebookロンドンオフィス訪問
3月14日 エディンバラ
Edinburgh Centre for Robotics研究室訪問
—————————————————————-
今回の研修の参加者が訪問先をいくつか紹介してくれました。
ロボット系研究室訪問
今回の海外研修では、ロンドンとエディンバラのロボット系の研究室に訪問し、ディスカッションを行いました。
Imperial College London 研究室訪問
Imperial College Londonは理工系と医学系に特化した世界的な名門大学で、今回は特にロボット系の研究に強いRobot Learning Labに訪問しました。大学キャンパス内の壁や窓ガラスには様々な化学の構造式や数学の公式が書き巡らされていており、かなり創造的な雰囲気でした。
両研究室の研究紹介ののち、お互いにの研究に関するディスカッションを行いました。松尾研からの研究紹介の際にはやはりロボット系の研究に興味を持っていただき、特に、食品加工や松尾研OBが立ち上げたDeepXが取り組んでいる建機制御の研究に質問が集まりました。
Robot Learning Labのメンバーとのディスカッション
Edinburgh Centre for Robotics 研究室訪問
Edinburgh Centre for Roboticsは、エジンバラ大学を中心とした複数の大学からなるイギリスの研究機関で、近年では日本の理化学研究所と機械学習やロボット分野での連携が強まっています。エジンバラ大学とヘリオットワット大学を案内していただきましたが、なんといってもロボットの多さに圧倒されました。工場用の腕型ロボットから家庭用のロボット、火星探索用のロボット、輸送用4足ロボットまで様々あり、さらにはロボット専用の模擬家庭空間まで用意されていました。「設備がとても充実しているけどロボットの学習はどうやっているの?環境を全てモデリングしているの?」という我々からの質問に対し「実機があるんだからシミュレータは要らないよ」と話していたのは印象的でした。またロボットと共に各所にレゴや電車のおもちゃ、人形、3Dプリントされた工具などが並べられており、ロボット研究のアイディアが溢れてきそうな空間になっていました。帰国後、この文化はさっそく松尾研でも取り入られ、今では研究室のロボットスペースはおもちゃや家具であふれています。
現在の松尾研究室ロボットスペースの様子。最近はロボット領域への深層学習の応用にも積極的に取り組んでいます。
ロンドンでの活動
英国赤門学友会との懇親会
活動初日の夜は東大OBのコミュニティである英国赤門学友会(通称赤門会)の方々との食事の機会がありました。「赤門会」は世界各国20箇所以上で開催されており、イギリスもその1箇所です。今回は急な日程にも関わらず30名を超えるOBの方々にご参加いただきました。
参加メンバーは、留学生、金融、インキュベーター、弁護士 等非常に多岐に渡っており、それぞれのテーブルにて各業界におけるディープラーニングの活用や将来性についての話題に花を咲かせていました。
この食事会を通して今後各分野の専門家と連携を強めて技術を実社会に応用していく重要性が更に高まってくると感じると共に、ディープラーニングがまだまだ伸びしろのある分野であることを強く実感しました。
英国赤門学友会の方々との懇親会
オックスフォード訪問
3日目は朝からオックスフォードへ向かい、英国赤門学友会の委員をされている利根川様に学友会の活動やオックスフォードでの生活について伺いました。利根川さんには今回の研修で訪問先のご紹介をいただき大変お世話になりました。オックスフォード内を散策し、AI societyという学生団体と昼食をとりながら交流を行いました。壁にTensorflowのコード例を貼っているという話やKaggleにAI societyのメンバーで参加するという話が大変印象的でした。大学発のベンチャーを育成するOxford University Innovationで意見交換を行いました。
オックスフォードにて学生との交流の様子。
SMAP Energy社訪問
オックスフォードでの予定が早めに終わることになり、急遽SMAP energyに訪問させていただきました。スケジュール変更に応じて、追加のアポイントをどんどん取れるというところに、今回の旅行アポ取りを担当した参加者の多様性を感じました。
SMAP Energy社の城口様は、オフィスのある建物の前の通りまで出てきてくださり、フレンドリーに迎えてくれました。中に入ると小さなオフィスではありましたが、やっている事業はどんどん拡大していて、特にスマートメータの普及が著しい日本での事業はかなりうまくいっているとのことでした。
事業の一つであるスマートメータを利用し集められた膨大な情報を利用して、電気料金を電力会社にとっても利用者にとっても望ましい料金に設定するサービスの説明を受けました。ゲーミフィケーションの手法も用いながら、インセンティブを利用者に与え、電気使用時間を電力需要の高い時間帯から低い時間帯にシフトさせ、その結果電力の生産コストを下げる仕組みの解説をいただきました。 これは、クラシックな経済学で語られるピークシフト料金の概念を、個人別・時間帯別に、ひたすら細かくしたもの、というイメージで理解できると思いました。理論的には理想的な資源配分で、それを実現したというところが、コンセプトにしても技術としても素晴らしいと感じました。
今後世界中のスマートメータの普及に合わせて、世界の市場をとっていく、という話には大いに刺激を受けました。最後に小さなオフィスの前の小さな広場で、SMAPEnergy社の創業者二人と研究室旅行のメンバー全員で肩を寄せ合って記念写真を撮りました。こんな小さなオフィスの会社が、数年で巨大な会社になる可能性を持っていることを考えながら、自分の将来について想いを馳せる機会となりました。
SMAP Energyのみなさんとの集合写真。
Facebookロンドンオフィス訪問
4日目には、Facebookのロンドンオフィスで勤めている古見様に、オフィスを案内していただきました。人数が多かったので、急遽オフィスツアー専門のスタッフ(!)の方と同行する形での見学になりました。ここにはFacebook本体やメッセンジャーのほか、Oculusを担当する部署や出資先のベンチャー企業の作業スペースもあります。
玄関はちょうどセント・パトリックス・デーの装飾がなされていました。中に入ると美術品や映画撮影に使われたセットがいたるところに飾られているなど、海外IT企業らしい雰囲気のオフィスになっています。会議室の部屋の名前が諺や映画の名前になっているなど、細かいユーモアにもあふれていました。会議室の名前の長さがバラバラで覚えにくそうですが、会議室だけではなく、どの社員がどこにいるかも検索できるシステムが案内ボードが作られているので、すぐに探し出せるようになっています。また、会議室には予約システムを搭載したタブレットが設置されており、キリのいい時間まで簡単に予約できるようにもなっています。このように、オフィスの設備も自社で開発したシステムによって利便性が高められています。それだけではなく、会議室の予約システムはとある操作を行うと(なぜか)ミニゲームが遊べるようになっていました。この機能は社内ハッカソンによって作られたそうです。社内ハッカソンのお知らせの掲示がオフィスのいたるところに貼られるなど、ハッカー精神(学生らしいノリ?)で様々な問題を解決していこうという社風も感じられます。
また昼食を社内食堂でいただきました。バイキング形式で、食堂内のスクリーンには勤続X周年の社員の方の顔写真等がスクリーンに映し出されています。こういったところにFacebookらしさが感じられます。その後、会議室で古見さんに直接質疑応答する時間を頂きました。特に印象に残ったのは、チームメンバー選びが重要だということです。今回見学したオフィスもロンドン内の第2オフィスであり、今でも大量に採用を進めているとのことですが、会社がとても大きくなっている中でうまく仕事が回り続けられるようにするためにも、採用時には単にいわゆる優秀な人物ではなく、会社のカルチャーにフィットする人材を集めることが大切だなと考えられました。
Facebookロンドンオフィスにて。
ロンドンでの訪問を通じて -コミュニケーション社会・ロンドン
ロンドンでは、複数の会社や機関を訪問させていただきました。ロンドンには著名な企業のオフィスが多く集まっていますが、どうしてロンドンにこうも多く集まるのか。訪問先で何度も尋ねたところ、答えは「ここがロンドンだから」ということでした。
話を深掘りしてゆくと、その本質は、多くの企業が集まり交流を持つコミュニティへの参加を重要視している企業が多いということでした。しかし、なぜ各社はヨーロッパの拠点をロンドンに選んでいるのでしょうか。
その理由の最たるものは、ロンドンが地理的に小さい都市で、その狭い地域に多くの有名・巨大企業の支店が拠点を構えていることでコミニュケーション効率が抜群なのだという。たしかに、私達は今回の訪問でロンドンでは6箇所を訪れましたが、それらを回ってみるといずれの距離も近く、車や徒歩ですぐの距離にあるのだと移動時にも実感しました。急に訪問が可能となった箇所すら、容易に移動することができたぐらいであり、今回訪問が叶わなかった他の候補地に関しても20分以内で移動が可能な所が大半だでした。東京に比べ、ロンドンの地下鉄は運行速度が遅く、車も速度を出せない。その状況下でも時間的距離が近いというのはコミュニケーションを取る際のアドバンテージになっていると感じました。
そして、話を聞いていくと企業同士の距離が近いというだけでなく、企業という枠に捕われないロンドンのコミュニティがありました。Facebookの社員の方によると、ロンドンでは人材の流動が激しいが、その転職の多さが会社同士の繋がりを深めているという。流れた人材が移った先で新たな人脈を作り、会社同士のコラボレーションが生まれることも少なくないのだそうです。会社間の交流のみではなく、社員間の交流も日本よりも重視されているように感じました。たとえば、Facebookでは社員同士の交流を重視しており、週に1度仕事で関わりのない社員同士で好きな店で飲食をするシステムがあるなど、本腰を入れた取り組みがなされているようです。
以上となります。
松尾研ではこのように毎年、学生をはじめ研究室のメンバーの視野を広げることを目的に、
海外へ実際赴き、現地企業の視察や研究者と交流をしています。
この経験を今後の研究に活かす他、個人の成長にも繋がることを期待しています。